大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所 平成3年(行コ)2号 判決

控訴人

中村一男

右訴訟代理人弁護士

吉川五男

被控訴人

下松労働基準監督署長河野敏行

右指定代理人

稲葉一人

園部修治

池沢茂

村崎真之

田中茂一

河村茂男

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一申立

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対し、昭和六〇年二月一三日付でなした、労働者災害補償保険法による障害補償給付が、労働者災害補償保険法施行規則別表第一に定める障害等級一二級に該当するとして、合計二〇一万四七八二円を支給するとした決定を取り消す。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二事案の概要

事案の概要(争点の摘示を含む。)は、次に付加するほかは、原判決「第二事案の概要」に摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人の当審における主張

控訴人の右肩、右上肢にかけての疼痛が、カウザルギー症状でないとしても、右各疼痛は他覚的に証明される神経症状であり、「労働には通常差し支えないが、時には強度の疼痛のため、ある程度差し支える場合があるもの」であるから、施行規則別表第一の一二級一二号に該当するというべきである。

また、控訴人の右背部から側胸部にかけての頑固な疼痛症状は、右肩、右上肢の疼痛、右肘関節の機能障害とは別系統の障害であり、少なくとも同別表第一の一二級に該当するものである。

したがって、控訴人については、右肩、右上肢にかけての疼痛と右背部から側胸部にかけての疼痛との合併後遺症を残すものとして、併合繰上げがなされるべきである。

二  被控訴人の右主張に対する反論

控訴人の右肩、右上肢の疼痛は、バイクの運転が可能であったり、衣服の着脱にも支障のない程度のものであって、「労働には差し支えないが、受傷部位に通常疼痛を残すもの」であるから施行規則別表第一の一四級に該当するというべきである。

また、右背部から側胸部にかけての疼痛も、右等級に該当する程度のものである。

したがって、控訴人には、同別表第一の一二級に該当する右肘関節の運動機能障害のほかに一三級以上の障害はないから、併合繰上げの前提を欠くものである。

第三争点に対する判断

当裁判所も、控訴人の本訴請求は失当であると判断するもので、争点に対する判断は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決「第三 争点に対する判断」に説示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決四枚目表七行目の「七、」の次に「一二、一三、」と付加し、同行目から八行目にかけて「原告」とあるのを「原審及び当審における控訴人」と改め、同六枚目表三行目の「自覚的に」の前に「肋骨骨折に基づくもので」と付加し、同枚目裏五行目に「原告」とあるのを「原審及び当審における控訴人」と改め、同七枚目裏六行目の括弧部分及び同八枚目表三行目から四行目にかけての括弧部分をいずれも削除する。

二  原判決も説示のとおり、控訴人の右肩、右上肢の疼痛は、労働には差し支えないが、ほとんど常時疼痛を残すものと認められ、施行規則別表第一の一四級の九に該当するものというべきであり、また、右症状は右変形性肘関節症に通常派生する関係にあると解されるから、右肘関節の運動制限による障害と、いずれか上位の等級をもって後遺障害の等級とすべきであるところ、原判決も説示のとおり、右肘関節の運動制限は、同別表第一の一二級の六に該当すると解されるから、結局、前記右肩、右上肢の疼痛も、右肘関節の運動障害の等級をもって評価されることになる。

また、原判決も説示のとおり、控訴人には、右背部から右側胸部にかけての疼痛があり、右疼痛は、肋骨骨折に基づくものではあるが、昭和六〇年五月一日の小田裕胤医師の診察時には、既に骨癒合は完成しており、右七、八、九肋間神経支配領域の知覚障害が認められず、深呼吸、咳等の急激な胸部の拡大時にも疼痛が認められないこと等からすると、右疼痛も、労働に支障を生じるものとまでは認められず、証拠(〈証拠・人証略〉)をも参酌すると、右疼痛は、労働には差し支えないが、受傷部位にほとんど常時疼痛を残すものであって、同別表第一の一四級の九に該当するものというべきである。

そうすると、控訴人には、前記右肘関節の運動機能障害のほかには、同別表第一の一三級以上の障害がないから、施行規則一四条三項の併合繰上げの前提を欠くものというべきである。

第四結論

よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。

(裁判長裁判官 新海順次 裁判官 小西秀宜 裁判官八丹義人は、転補につき、署名捺印することができない。裁判長裁判官 新海順次)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例